「東亜通信 第24号」東亜通信を発信しました

■有識者会議「中間報告案」 自民党外特委で議連が追及

有識者会議 「廃止」を打ち出すも技能実習制度の骨格は残す 
法務省 「技能実習の廃止」の言葉をメディア使って一人歩きさせる狙い

政府の有識者会議は4月10日、中間報告案を公表し、各メディアが一斉に報道しました=写真は自民党外国人労働者等特別委員会に出席する武部会長(左から4人目)。
20230418-1中間報告案(たたき台)によると、概要の検討の大きな方向性は「技能実習制度を廃止し、人材確保と人材育成を目的とする新制度を創設する」としています。しかし、内容は(1)制度のあり方は「人材育成制度を維持し、人材確保も制度目的に加え、実態に即した制度へ」(2)キャリアパスは「職種は特定技能の分野とそろえる。技能の育成・評価を行う(評価方法は引き続き検討)、キャリアップしつつ、習得した技能等をさらにいかせる制度へ」(3)受入れ見込数の設定は「様々な関係者の意見やエビデンスを踏まえ判断される仕組み」(4)転籍は「転籍制限は限定的に残すも、制度趣旨と外国人の保護の観点から緩和」(5)管理監督や支援体制は「監理団体や登録支援機関の要件の厳格化(機能や要件は引き続き検討)、外国人技能実習機構は存続し、管理・支援能力を向上、悪質送出機関の排除等に向けた二国間取決め等の取組強化」(6)日本語能力は「就労開始前の日本語能力の担保と来日後の日本語能力を向上する仕組み」――としています。技能実習制度の骨格は残しており、中間報告案を取りまとめた法務省(入管庁)が論理を飛躍させ「技能実習制度の廃止」という言葉を、メディアを使って意識的に一人歩きさせようとする意図が垣間見られます。

武部会長「技能実習制度だけ廃止して特定技能制度へ移行するのは言語道断」
福原入管庁審議官「特定技能制度へ移行することはない」と明確に答弁

10日の自民党外国人労働者等特別委員会では入管庁の福原道雄審議官が有識者会議の中間報告案を説明しました­=写真は武部会長。NAGOMiの武部勤会長(東亜総研会長)は中間報告案について「技能実習制度の目的に人材育成のほか人材確保を20230418-2加えて実態に即した新制度にし、特定技能制度との間で一元的な運用を目指すとしているが、特定技能制度の問題点は手つかずで、一元化の全体像は示されていない。技能実習制度だけを廃止して特定技能制度に移行するのは言語道断。人材確保、人材育成、国際貢献を共通目的に、技能実習制度と特定技能制度を一体的にした新制度が創設されるべきではないか」とコメントを出しています。10日の外特委で、武部会長は「技能実習制度だけを廃止して特定技能制度に移行するのは言語道断だ。特定技能制度についての議論が全くされていない。法務省は特定技能制度に移行することを考えていないですね」と何度も問いただしました。これに対して、入管庁の福原審議官は「特定技能制度に移行することはない」と明確に答弁しました。

議連「有識者会議の意見に『廃止』の文言はないが意図的な結論を危惧」
議連「特定技能制度に問題が多いにもかかわらずほとんど指摘がない」
議連「ただの転籍緩和は不利益が多すぎる。東京に行くことは必定」

外特委では、グローバル人材共生推進議員連盟の長島昭久幹事長(衆院議員)は「(中間報告案の)本文(過去の有識者会議での発言)を読めば、技能実習制度廃止というヘッドラインがくる内容ではない。良い部分は残すと明記している。制度目的と実態の齟齬を修正することは必要だが、両制度残してという現場の強い希望があるなかでこの打ち出しは混乱する。技能実習制度廃止が前面にでているが、これは有識者会議の総意か。法務省の意図にひきずられていないか。技能実習の言葉をなくしたいという思いは多少理解できるとしても、骨格として技能実習の根幹が残れば廃止という言葉との齟齬が出るだろうし、その方が信用を失うのではないか。整合性ある制度にするなら、両方とも廃止して抜本的に改革したほうが良い。全面的改正、全面的刷新という言葉がふさわしいだろう。すでにマスコミは廃止で報道している。皆さんはそれに伴う地方での影響に責任が持てるのか」と追及しました。さらに法務省主導で特定技能へのマッチングを全国で開催していることに触れ、「結果的に技能実習生を引っこ抜いているだけだとわかっているのか。特定技能制度の課題が多いにもかかわらず問題点はほとんど指摘されておらず一元化の全体像は示されていない」と指摘しました。

議連の柿沢未途衆院議員は「技能実習制度の評判が悪いという指摘に対して言葉を廃止しようという事が前面に出ている。特定技能についても多くの課題があるなか、技能実習廃止が前に出ているのは誤解を招くし、実習生受入企業にとっても先の姿が見えず混乱を生む。技能実習を経て特定技能に移行というキャリアパスが事実上あるなかで、こうした両制度一元化の打ち出し方には違和感を覚える」と述べました。さらに転籍について「(自分は東京が選挙区だが)単純に認めると全員東京に行くことは必定だ。これまでの外特委でもその懸念は何人も示してきた。国益に資する限りにおいて受け入れは必要なので、一定年数経過して日本での就労実績積むまでは制限するとか、地域限定的な就労許可を出すなど、検討することは沢山ある。ただの転籍緩和は不利益が多すぎる」と意見を述べました。

議連「本文(有識者会議の発言)と概要(結論)の内容がずれている」
議連「すでにマスコミ報道されているが概要の取り消し・訂正をすべき」

議連の塩崎彰久衆院議員は中間報告案(たたき台)について本文(過去の有識者会議の発言)と概要(結論の1枚紙)の内容がずれてないかと質し、具体的に(1)技能実習制度廃止について本文内の該当委員の記述を読んでも廃止主導と読み取れない。どこをどうまとめたら廃止となるのか(2)転籍制限は概要には限定的に残しつつもとあるが、本文には一定制限をかけるとあり、整合性がないのではないか(3)本文冒頭に「両制度の在り方について検討を行った」とあるが、全体を見ると技能実習制度の課題指摘が圧倒的に多い。20230418-3特定技能制度についても十分な意見交換をしたのか、と質問しました。塩崎議員は「既にマスコミは廃止で報道してしまっているが概要の取り消し・訂正をしてはどうか」と意見を述べました=写真の右側は入管庁など関係省庁。
議連の細野豪志衆院議員は「理念先行型だ。私の地元(静岡県)でも技能実習生はほとんどしっかりやっているのだから、現場に不安が生まれない配慮をしていただきたい。技能実習の良い面を残しつつ、職種を幅広く大括りにするなど実習生、受入企業が不安にならないようにしてほしい」と意見を述べました。

入管庁「廃止が一人歩きするリスクについて打ち出しが早いとの指摘も」
入管庁「本文と概要の差異は今月末の中間報告作成に検討したい」

これに対し、入管庁の福原審議官は(1)技能実習制度の廃止について「有識者会議の座長含め15人の多くの方からうまくまとめたとの肯定的意見をいただいた。一方で廃止が一人歩きするリスクについても、打ち出しが早いのではという指摘もいただいた。その分、きちんと技能実習の良い部分の維持を訴える必要があると考えている。発展的解消という意見もあった」(2)転籍について「技能実習制度が実習であるため、原則転籍ができないというロジック。今回の見直しで人材確保・人材育成を目的とするとすれば、扱いは労働者であり実習と異なるため、転籍緩和と認識している。ただし転籍リスクも多いためきちっと議論をしないといけない。一定の制限緩和、緩和について議論が必要だ。技能実習の良い部分を残して作り変えると言うのが議論の中心だ。特定技能の85%は技能実習からの変更者という事で、特定技能についても見直していく」(3)所管省庁について「決して入管庁が一元的に引き受けるという訳ではない。厚労省とも協働する」(4)ご指摘いただいた本文と概要の差異について「最終的には正式な中間報告書を作成するので、そこで検討したい」――などと答えました。

最後に外特委の笹川博義事務局長(衆院議員)は「(法務省は)結論ありきが独り歩きしないように。技能実習・特定技能だけではないので幅広に議論を」と述べました。

有識者会議は10日の中間報告案を受け、17日に意見交換、24日に中間報告をまとめる方向です。グローバル人材共生推進議員連盟は自民党外国人労働者等特別委員会などを通して政治の場で議連の考えを政策に反映させていくとしています。

NAGOMiは今後、自民党のグローバル人材共生推進議員連盟や公明党外国人材の受入れ対策本部と連携しながら、NAGOMiの提言を政府与党の政策に反映させるように努めてまいります。

議連がまとめた自民党外特委への意見・質問の文書は次の通り。

グローバル人材共生推進議員連盟の武部新衆院議員がまとめた文書によると、全体的な意見・質問として(1)「廃止」の表現は誤解を招くのではないか。何か意図があるのか(2)技能実習と特定技能の整合性ある一体改革の全体像が示されていない。特定技能の改革について不十分ではないか。全体像が分かって初めて技能実習の改正の絵姿が分かるので、一体改革の全体像を示すべき(3)一元的運用の観点から、特定技能制度においても人材確保のみならず国際貢献や人材育成を目的に加えるべき(4)技能実習制度を廃止して特定技能制度に統合するのではなく、特定技能も一旦廃止して一体的な新制度を創設すべき(5)管理監督・支援のあり方は、外国人材受け入れ制度の成否に関わる最重要課題。一元的運用の観点から、両制度をカバーする管理支援機関を設置し、特定技能人材の保護機能も義務化すべき(6)管理支援機関の全国組織をつくって政府及び都道府県、市町村との連携、情報共有、管理支援機関等の研修、外国人材の実態把握等を図るべき(7)新制度は引き続き「法務省・厚労省の共管」とするのか。技能実習と特定技能がひとつながりの制度となれば、当然、特定技能についても共管となるべきではないか――。

技能実習制度に代わる新たな制度について(1)新制度においても国際貢献を目的に明確に位置付けるべき(2)新制度では、現技能実習制度にある前職要件は撤廃されると理解して良いか(3)新制度では、特定技能制度と同様に受入見込み数が設定されるのか。人材育成の観点から不要ではないか。透明性と予見可能性を高める仕組みとはどんなイメージか。どこが行うのか(4)人材育成の観点から転籍制限は設けるが、どのような緩和を検討するのか(5)新制度において人材確保の目的が追加されるのであれば、監理団体に転籍も含めた事業者とのマッチング機能を付与するべきではないか――。

特定技能制度について(1)登録支援機関については許可制にし、支援能力のない機関は排除すべき。登録支援機関等への指導監督体制を強化する必要(2)不当な引き抜きを防止する実効性ある仕組みについて検討すべき(3)特定技能の地域偏在を防止する必要。その点で自治体等の役割は重要であるが、自治体への支援策も必要ではないか(4)所管省庁と業界団体の連携、業界の役割、所管省庁の対応強化など記載されているがどのような仕組みを考えているのか。責任が曖昧にならないか。全体を統括するのはどこか(5)特定技能においても、キャリアアップの道筋をつくる必要がある。特定技能1号修了者や新制度修了者に対して、キャリアステージに合わせた在留資格を創設するなどインセンティブの付与が必要(6)「特定技能2号」の分野拡大についてどう考えるのか。「特定技能1号」の12分野をどこまで「2号」として認めるのか(特に「縫製・繊維」など重要分野を早期に加えるべき)。「1号」から「2号」に移行できる道筋を早期に示すべき(7)業種ごとに職種を指定する考え方自体を転換すべきではないか。緩い業種指定とすべきではないか(8)『優良技能実習実施者』たる『優良企業』に対しては、これまでの受け入れ人数を増枠すべき(9)特定技能の「受け入れ見込み数設定」は第三者機関が行うことが客観性・公平性の観点から妥当――。